COLUMN 不動産株は下落。それでも商業用不動産に「チャンス」が残る理由
11分で読める
金利上昇の裏で進む、日本の不動産市場の「二極化」
東京株式市場では、不動産関連株に売りが広がりました。
背景にあるのは、金利上昇への警戒です。
不動産業は、土地や建物の取得・開発に多額の借入を利用します。
そのため金利が上昇すれば、
借入コストが上昇する
↓
不動産会社の利益を圧迫する
↓
不動産株が売られる
という連想が働きます。
長期金利の上昇が株式市場全体の重しとなり、不動産株も売られる展開となりました。
では、
「金利が上がって不動産株が下がっているのだから、不動産市場そのものも悪い」
のでしょうか。
実は、現在のデータを見るとそう単純ではありません。
むしろ、実物の商業用不動産市場では、大きな資金が動き続けています。
ここに、2026年の不動産市場を見るうえで非常に重要な「ねじれ」があります。
株価と実物不動産は、同じ動きをしていない
まず注目したいのが、国内商業用不動産への投資額です。
CBREによると、2026年第2四半期の日本の商業用不動産投資額は、
1兆1,210億円
前年同期比で、
+17%
となりました。
第2四半期として投資額が1兆円を超えたのは、世界金融危機直前の2008年以来です。
さらに第1四半期も、
2兆430億円
と、第1四半期として過去最高を記録しました。
つまり2026年前半だけで、
約3.16兆円
もの資金が日本の商業用不動産市場に流れ込んだ計算になります。
これは非常に興味深い現象です。
金融市場では、
「金利上昇=不動産に逆風」
として不動産株が売られている。
一方、実物不動産市場では、
1兆円単位の資金が動き続けている。
この違いを理解することが、現在の不動産市場を見る第一歩です。
なぜ金利が上がっても不動産が買われるのか
本来、金利上昇は不動産投資にとってマイナスです。
しかし、不動産価格を決めるのは金利だけではありません。
非常に重要なのが、
「その不動産がどれだけ稼げるか」
です。
例えば、金利が上昇して借入コストが0.5%上がったとしても、
賃料が5%、10%と上昇していけば、物件の収益力そのものは改善する可能性があります。
現在の日本の商業用不動産で起きているのは、まさにこの変化です。
特に注目したいのが、
東京のオフィス市場です。
東京オフィスの空室率は1%台
CBREによると、2026年第2四半期の東京オフィス市場では、全グレードの空室率が、
1.4%
まで低下しました。
さらにグレードAオフィスの賃料は前四半期比、
+4.3%
グレードAマイナスでは、
+4.7%
上昇しています。
別の指標でも強さが確認できます。
三鬼商事による2026年7月の東京都心5区の平均空室率は、
1.95%
平均賃料は、
23,287円/坪
前月から294円上昇しました。
つまり現在の東京オフィス市場では、
空室が減り、賃料が上がっている。
という状態です。
これは商業用不動産にとって非常に重要です。
「金利上昇」vs「賃料上昇」
ここからが2026年の不動産市場を見るポイントです。
現在、市場では2つの力がぶつかっています。
一つは、
金利上昇
これは不動産にとってマイナスです。
そしてもう一つが、
賃料上昇
こちらは不動産にとってプラスです。
つまり今後の不動産市場は、
「金利が上がるから全部ダメ」
ではありません。
重要なのは、
「金利上昇を上回る賃料成長ができる物件かどうか」
です。
ここから不動産市場の二極化が進む可能性があります。
すべての不動産が上がる時代ではない
金利が低かった時代には、
多少収益力の弱い物件でも、低コストで資金調達することで投資が成立しました。
しかし金利が上がれば、このモデルは難しくなります。
今後は、
「不動産だから買う」
のではなく、
「賃料を上げられる不動産を買う」
という考え方が重要になります。
例えば、
立地の悪いオフィス。
老朽化したビル。
テナント需要の弱い商業施設。
人口減少地域の収益物件。
こうした不動産には金利上昇が直接的な逆風になります。
一方、
都心一等地のオフィス。
インバウンド需要を取り込めるホテル。
供給制約のある物流施設。
データセンター。
再開発エリア。
こうした物件は、金利上昇局面でも収益力を高められる可能性があります。
つまり、
「不動産市場」ではなく「不動産ごと」に見る時代
になってきています。
機関投資家は何を見ているのか
ここで、もう一度投資額を見てみましょう。
2026年第1四半期、日本の商業用不動産投資額は2兆430億円。
第1四半期として過去最高でした。
海外投資家による1,000億円を超える大型取得も確認されています。
そして第2四半期も1兆1,210億円。
つまり、
プロの不動産投資家が日本から一斉に逃げているわけではありません。
むしろ、
「金利が上がっても収益を伸ばせる物件」
を選別して買っていると見ることができます。
ここが、株式市場との大きな違いです。
株式市場では、不動産セクター全体が「金利上昇」というテーマで一括して売られることがあります。
しかし実物不動産の世界では、
一棟、一棟を見て投資判断する。
だからこそ、このギャップが生まれます。
ホテルにも大きな変化
もう一つ注目したいのがホテルです。
2026年第1四半期には、J-REITによる大型取得もあり、ホテルの投資額が四半期ベースで過去最高となりました。
ホテル市場には、
インバウンド。
宿泊単価上昇。
観光需要。
という追い風があります。
住宅の場合、家賃を1年間で20%上げることは簡単ではありません。
しかしホテルは違います。
需要が強ければ、
1泊2万円だった部屋を2万5,000円、3万円で販売する
ことも可能です。
つまりインフレ局面では、ホテルは比較的価格転嫁しやすい不動産です。
これは金利上昇時代において非常に重要な特徴です。
物流施設にもAI時代の需要
物流不動産も無視できません。
EC市場。
自動化。
物流効率化。
そしてAIによるサプライチェーン高度化。
こうした構造的な需要があります。
2026年第1四半期には物流施設への投資額も前年同期比2桁増となりました。
第2四半期もオフィスと物流施設への投資額は前年同期比2桁増となっています。
つまり商業用不動産の中でも、
企業活動を支えるインフラ型不動産
には依然として資金が向かっています。
そして次に来る「データセンター不動産」
さらに中長期で重要なのが、
データセンター
です。
AIの普及によってデータセンター需要が拡大すれば、
必要になるのは半導体だけではありません。
土地。
建物。
大量の電力。
変電設備。
光ファイバー。
冷却設備。
これらが必要になります。
つまりデータセンターは、
「AI」と「不動産」が交わる場所
でもあります。
今後の商業用不動産を見る場合、
オフィス・ホテル・物流に加え、
データセンターという新しい不動産需要
も重要になります。
では、なぜ不動産株は下がるのか
ここまで読むと、
「実物不動産が強いなら、なぜ不動産株は下がるのか」
という疑問が出てきます。
理由の一つは、株式市場が「将来」を先に織り込むからです。
長期金利が上昇すれば、
借入金利が上昇する。
不動産の期待利回りが上昇する。
資産価格に下落圧力がかかる。
利益成長が鈍化する可能性がある。
株式市場はこれらを先回りして評価します。
特にREITは利回り商品として債券と比較されるため、金利上昇の影響を受けやすくなります。
実際、2026年6月には東証REIT指数が一時1,740ポイント台まで下落し、約1年ぶりの安値水準となりました。
つまり、
「物件が稼げていないから下落している」とは限らない。
金利という金融市場側の要因によって評価が下がっているケースもあるわけです。
ここに「チャンス」が生まれる
投資の世界で面白いのは、
「価格」と「価値」がずれる瞬間
です。
不動産株やREITが金利上昇だけを理由に売られる。
しかし、
保有物件の稼働率は高い。
賃料は上昇している。
物件売買は活発。
インバウンド需要も強い。
優良物件への投資需要も残っている。
もしこの状態が続くのであれば、
株価だけが先に下落したところに投資機会が生まれる可能性があります。
もちろん、
「下がったから買い」
ではありません。
ここは非常に重要です。
これから見るべき4つの数字
今後、不動産関連への投資を考える場合、株価だけを見るのではなく、最低でも4つの数字を確認する必要があります。
① 金利
借入コストがどこまで上昇するのか。
② 空室率
物件への実需があるのか。
③ 賃料
インフレを価格転嫁できているのか。
④ NOI
不動産が実際に生み出す収益が増えているのか。
この4つをセットで見る。
特に重要なのは、
「金利上昇率」と「賃料上昇率」の競争
です。
賃料・NOIが金利上昇によるコスト増を吸収できる物件は強い。
できない物件は厳しい。
この差が今後さらに大きくなるでしょう。
「不動産株下落=不動産不況」ではない
2026年8月18日。
株式市場では、金利上昇を嫌気して不動産関連株が売られています。
しかし実物市場を見ると、
2026年第1四半期の商業用不動産投資額は過去最高。
第2四半期も前年同期比17%増。
東京オフィスの空室率は低水準。
そして賃料は上昇しています。
つまり今起きているのは、
「日本の不動産が全面的に悪化している」
という単純な話ではありません。
むしろ、
金利に弱い不動産と、賃料を上げられる不動産の選別
が始まっていると考える方が実態に近いでしょう。
これまでのように、
「不動産なら何でも上がる」
という市場ではなくなる。
その代わり、
オフィス。
ホテル。
物流。
データセンター。
その中でも強い立地、強い物件、強い運営会社へ資金が集中する。
不動産株が下落している今だからこそ、
株価だけではなく、
その裏側にある「実物不動産の収益力」を見る。
市場が「金利上昇」という一つの材料だけを見ているときに、
その先にある賃料、空室率、NOIまで見ることができれば、
そこに次の投資機会が隠れているかもしれません。
不動産株が下がっている。
だから不動産は終わりなのではありません。
むしろ2026年の商業用不動産市場では、
「何を持っているか」で勝敗が分かれる局面が始まっている。
そう考えると、現在の下落相場の見え方も少し変わってくるのではないでしょうか。

