COLUMN 「金利3%は日銀だけの問題ではない」
11分で読める
― 高市政権の積極財政と国債市場が始めた“綱引き”―
2026年8月、日本の長期金利がいよいよ「3%」を意識する水準まで上がってきました。
ここまで来ると、
「日銀が利上げするから金利が上がっている」
という説明だけでは足りません。
今、日本の国債市場で起きていることはもっと複雑です。
日銀はインフレを抑えたい。
政府は景気を支え、投資を増やしたい。
そして国債市場は、
「その財政政策を、本当に持続できるのか」
と政府に問い始めています。
今回の金利3%接近は、単なる金融政策の話ではありません。
政治・財政・インフレ・為替、そして市場から政府への“信任投票”が重なった結果として見る必要があります。
1.なぜ今、金利3%なのか
現在の日本では、物価上昇が以前より定着しつつあります。
原油などのエネルギー価格。
円安による輸入コスト。
賃金上昇。
企業による価格転嫁。
こうした要因が重なれば、日銀としても超低金利政策へ簡単に戻ることはできません。
経済・物価が想定通り推移すれば、金融政策をさらに正常化する可能性があります。
金融政策だけを見るなら、
物価が高い
↓
日銀が利上げする
↓
国債利回りが上がる
という構図です。
しかし現在は、そこにもう一つの大きな力が加わっています。
それが、
高市政権の積極財政です。
2.高市政権は何をしようとしているのか
高市政権が掲げる経済政策の中心には、
政府が成長分野へ積極的に資金を振り向ける
という考え方があります。
AI。
半導体。
造船。
防衛。
エネルギー安全保障。
国土強靱化。
サイバーセキュリティ。
こうした分野に官民で投資し、日本経済の成長力そのものを引き上げようとしています。
狙いは明確です。
単純に景気対策としてお金を配るのではなく、
将来の税収と成長につながる投資へ資金を振り向ける。
政府から見れば、
「借金を増やす政策」
ではなく、
「日本の稼ぐ力を取り戻すための投資」
です。
しかし国債市場は別の角度から見ています。
市場が最初に考えるのは、
その支出をどうやって賄うのか。
という問題です。
3.政治家と国債市場では見ている景色が違う
政治家から見れば、
AIへ投資する。
防衛力を強化する。
道路やインフラを更新する。
国内産業を支援する。
こうした政策には明確な目的があります。
しかし国債を買う投資家が見るのは、
その投資によって将来どれだけ経済が成長するのか。
そして、
最終的に政府債務を支えられるのか。
です。
政府支出が増える。
↓
国債発行が増える可能性が高まる。
↓
国債の供給が増える。
↓
投資家がより高い利回りを要求する。
↓
国債価格が下がる。
↓
長期金利が上昇する。
ここに、
政治とマーケットの緊張関係
が生まれます。
4.金利上昇が国家予算に入り始めた
今回の金利上昇で重要なのは、
市場だけの問題ではなくなってきたことです。
金利が上がれば、国債の利払い費も増えます。
日本は巨額の国債残高を抱えています。
すべての国債が一気に高金利へ切り替わるわけではありませんが、国債の借り換えが進むにつれて、徐々に高い金利が政府の財政へ反映されていきます。
すると、
社会保障。
防衛。
教育。
子育て支援。
成長投資。
こうした政策に使える財源が圧迫されます。
つまり、
積極財政を続けたい政府にとって、金利上昇そのものが積極財政を難しくする
という矛盾が生まれます。
5.政府・日銀・市場の三角関係
現在の日本は、非常に興味深い状態にあります。
政府は、
もっと投資を増やしたい。
日銀は、
インフレが続くなら金融正常化を進めたい。
国債市場は、
その両方を本当に続けられるのかを見ている。
この3者の思惑がぶつかっています。
政府が積極財政を強める。
↓
景気が刺激される。
↓
需要が増える。
↓
インフレ圧力が残る。
↓
日銀は利上げを続けやすくなる。
↓
国債利回りが上昇する。
↓
政府の利払い費が増える。
↓
財政余力が減る。
この循環こそ、
「金利3%は日銀だけの問題ではない」
という今回のテーマの核心です。
6.政治には「金利を上げたくない理由」がある
政府にとって金利上昇は歓迎できるものではありません。
住宅ローン金利が上がれば家計負担が増えます。
企業の借入金利が上がれば設備投資にも影響します。
不動産市場にも逆風になります。
そして政府自身の利払い費も増えます。
つまり政治的には、
できれば金利は低い方がいい。
一方で、物価高や円安が続けば、
日銀には利上げを求める圧力がかかります。
ここに難しさがあります。
政治としては景気を刺激したい。
金融政策としては景気を冷ましたい。
この相反する力が同時に動いているのです。
7.しかも政府は簡単に財政を引き締められない
さらに難しいのは、
国民が物価高に苦しんでいることです。
生活費が上がれば、
減税。
給付。
ガソリン価格対策。
社会保険料負担の軽減。
こうした政策への要求が強まります。
しかし減税や給付を増やせば、
財政支出は増える。
あるいは税収が減る。
結果として、
国債市場は再び財政悪化を警戒する可能性があります。
つまり政府は、
国民からは「もっと支援してほしい」と言われ、
国債市場からは「支出を増やし過ぎるな」と言われる。
この板挟みにあります。
8.積極財政=悪ではない
ただし、
「積極財政だから金利が上がる」
と単純に考えるのも危険です。
重要なのは、
何に使うのか。
です。
例えば、
AI。
半導体。
電力網。
データセンター。
防衛。
造船。
こうした分野への投資が日本企業の生産性を高め、
企業利益を増やし、
賃金を上げ、
税収を増やすなら、
政府債務が増えてもGDPがそれ以上に成長する可能性があります。
政府が狙っているのはこのシナリオです。
財政支出
↓
民間投資
↓
経済成長
↓
企業利益増加
↓
税収増加
↓
政府債務の負担軽減
つまり問題は、
積極財政そのものではありません。
市場が見ているのは、
使ったお金が本当に成長につながるのか。
です。
9.国債市場が最も嫌うもの
実は国債市場が恐れるのは、
借金の額だけではありません。
もっと嫌うのは、
政策が読めなくなることです。
突然の大型減税。
突然の巨額経済対策。
突然の国債増発。
政策の方向が短期間で変われば、
投資家は将来の金利を予測しにくくなります。
すると、
「日本国債を長期間持つなら、もう少し高い金利が欲しい」
という要求が強まります。
これが長期金利を押し上げる要因になります。
これからの日本では、
日銀の政策金利だけではなく、
政府への信頼そのものが長期金利を左右する
可能性があります。
10.日銀が利上げを止めても安心とは限らない
ここは投資家にとって重要です。
これまでなら、
「日銀が利上げを止めれば、金利も下がる」
と考えることができました。
しかしこれからは違う可能性があります。
仮に日銀が利上げを止めても、
政府の財政運営への懸念が強ければ、
国債市場の金利は下がらないかもしれません。
つまり、
短期金利は日銀が強く支配する。
一方、
長期金利は日銀だけでなく、インフレ・財政・国債需給・政治への信頼で決まる。
という世界になっていきます。
これは日本市場にとって大きな変化です。
11.日本株の評価基準も変わる
長期金利が3%近くまで上がる世界では、
株式市場の常識も変わります。
低金利時代は、
10年後、20年後に大きく成長する可能性がある企業でも高く評価されました。
将来利益を現在価値へ割り引く際の金利が低かったからです。
しかし金利が上がれば、
遠い未来の利益の価値は下がります。
そこで重要になるのが、
今、キャッシュを生んでいる企業です。
銀行。
保険。
高いキャッシュフローを持つ企業。
価格転嫁力のある企業。
こうした企業が評価されやすくなります。
反対に、
借金が多い企業。
不動産。
REIT。
高PERグロース株。
こうした企業には金利上昇が逆風になります。
ただし、
「銀行だから必ず上がる」
「不動産だから必ず下がる」
というほど単純ではありません。
重要なのは、
金利上昇がその会社の利益へどの程度影響するのか
を見ることです。
12.投資家が今後見るべき5つのポイント
このテーマを追うなら、
日銀会合だけを見ていてはいけません。
見るべきポイントは5つです。
① 10年国債利回り
3%を明確に突破するのか。
② 超長期国債の金利
20年・30年国債は、財政への警戒感が表れやすい場所です。
③ 国債入札
高い利回りでも買い手が集まらなくなれば、
国債市場から政府への警告になります。
④ ドル円
日本の金利が上がっても円安が続く場合、
単なる日米金利差だけでは説明できない可能性があります。
⑤ 政府の予算と国債発行
積極財政が、
「成長投資」
として評価されるのか。
それとも、
「財政拡張」
と見なされるのか。
ここが最大の焦点です。
結論
日本の長期金利が3%へ近づいている。
これを、
「日銀が利上げするから」
だけで考えると、本質を見失います。
今、日本では、
・金融政策
・財政政策
・物価
・為替
・政治
が一つにつながり始めています。
高市政権は、日本の成長力を引き上げるために積極財政を進めたい。
日銀は、インフレを抑えるために金融正常化を進めたい。
そして国債市場は、
その二つが同時に成立するのか
を試しています。
だから今回の「3%」は、
単なる金利の数字ではありません。
ある意味では、
日本政府の経済政策に対して、市場が付けている価格です。
今後最大の焦点は、
高市政権の積極財政が、
「日本を再成長させる投資」
として評価されるのか。
それとも、
「国債を増やす財政拡張」
として警戒されるのか。
最終的な答えを出すのは、
政治家でも日銀でもありません。
国債市場です。
そして日本株を考える投資家にとっても、
これから重要になるのは、
「日銀は次に何%へ利上げするのか」
だけではありません。
政府が何にお金を使うのか。
その投資がどれだけ成長を生むのか。
そして市場がそのストーリーを信じるのか。
金利3%時代とは、
金融政策だけを見て日本株を考える時代が終わり、
政治と財政まで読まなければ、日本株を読めない時代の始まりなのかもしれません。

