レアアース・ガリウム・防衛・インフラで始まる再評価

総合商社と聞いて、多くの投資家が最初に思い浮かべるのは三菱商事、三井物産、伊藤忠商事だろう。

一方、双日は大手商社の中では時価総額が比較的小さく、長い間「割安な総合商社」という位置付けで見られることが多かった。

しかし、現在の双日を従来の物差しだけで見ると、企業価値の変化を見落とす可能性がある。

いま双日の事業ポートフォリオで静かに存在感を高めているのが、

レアアース

ガリウム

防衛・航空

社会インフラ

という4つの領域だ。

一見すると別々のビジネスに見える。

だが、これらには共通点がある。

それは、

「国家が確保しなければならない資源・インフラ」

ということだ。

世界経済のテーマが「グローバル化による効率追求」から「経済安全保障による供給網の確保」へ変化する中、双日という会社の見え方も変わり始めている。

1.いま世界で起きているのは「資源の再軍備」

レアアースやガリウムは、以前なら一部の資源投資家だけが注目する特殊な商品だった。

現在は違う。

EV、産業ロボット、半導体、データセンター、ミサイル、戦闘機、レーダー、通信機器など、現代の産業・安全保障を支える製品の多くが重要鉱物なしでは成立しない。

特にレアアースは、高性能磁石などに不可欠だ。

そして現在、そのサプライチェーンの中国依存が各国にとって大きな戦略課題になっている。

Reutersは2026年7月、日本企業の間で中国によるレアアース供給制約への警戒が急速に高まっていると報じた。日本企業の関連開示でも、供給リスクへの言及が増えている。

さらに9月1日のG20財務相・中央銀行総裁会議でも、日本は中国による重要鉱物の輸出制限を問題として取り上げている。

つまり重要鉱物は、単なる商品市況ではない。

国策テーマになった。

ここで双日が浮かび上がる。

2.双日のレアアースは「昨日始めた事業」ではない

投資家が見るべきポイントは、双日が単にレアアースブームに乗っているわけではないことだ。

双日は半世紀以上にわたってレアアースの輸入・販売に関わってきた。

そして現在、その経験を「中国以外の供給網構築」へと発展させている。

中心にいるのが豪州のLynas Rare Earthsだ。

Lynasは中国以外では世界最大級のレアアース生産企業であり、世界的な経済安全保障政策の中でも重要なポジションにいる。

双日は2025年10月から豪州由来の重希土類の輸入を開始。

さらに2026年3月には、Lynasと新たなレアアース鉱山開発の検討を開始し、日本向け中重希土類について取扱品目と供給量を拡大することで合意した。

ここが重要だ。

双日は、

「レアアースを買って日本で売る商社」

から、

「資源開発から供給網そのものに関与する商社」

へ進みつつある。

しかも現在、世界ではLynasの戦略的重要性そのものが高まっている。

Reutersは9月2日、Lynasが今年買収交渉を行っていたことを報道した。同社が中国以外の重要なレアアース供給主体であること自体が、世界的な戦略価値を示している。

双日はその供給網に深く関与している。

これは非常に重要なポイントだ。

3.次のカードは「ガリウム」

さらに投資家が注目したいのがガリウムだ。

ガリウムは半導体、通信、レーダー、防衛などで使用される重要鉱物である。

そして2026年7月15日、双日はJOGMECなどと進めてきた豪州でのガリウム生産事業について、最終投資決定を行った。

西豪州のAlcoaのアルミナ精錬所でガリウムを生産し、日本を中心とした需要国へ販売する計画だ。

しかもこのプロジェクトは、

日本

豪州

米国

の連携案件だ。

ここまで来ると、単なる資源ビジネスではない。

国家間の重要鉱物政策そのものに近い。

米国防総省も7月、レアアース・ガリウムなどを扱う米企業へ2500万ドルを投資している。背景にあるのは、防衛産業向け重要鉱物の中国依存低減だ。

世界がガリウム確保に動いているタイミングで、双日はすでに供給側のポジションを構築し始めている。

4.レアアースと防衛は一本の線でつながっている

双日を見る際に、資源事業だけを単独で見るのはもったいない。

同社には航空・防衛ビジネスがある。

そしてレアアースやガリウムの最大の特徴の一つが、防衛装備との関係だ。

レアアースは、

戦闘機

ミサイル

レーダー

誘導装置

通信機器

人工衛星

などにも使用される。

つまり、

重要鉱物 → 半導体・電子部品 → 航空・防衛

という産業構造が存在する。

世界では現在、防衛費の増大と重要鉱物確保が同時進行している。

だからこそ、双日の

「資源」+「航空・防衛」

という組み合わせには、これまで以上の意味が出てくる。

5.さらにインフラへ。35年間の空港事業

もう一つ注目したいのがインフラだ。

2026年7月30日、双日はウズベキスタン・タシケントで建設予定の新国際空港の開発・運営事業への参画を発表した。

サウジアラビアのVision Invest、仁川国際空港公社などと組み、ウズベキスタン政府系企業と35年間の事業権契約を締結している。

2030年の開港を予定する中央アジアの大型インフラ案件だ。

ここでもポイントは単純な建設ではない。

空港を「つくって終わり」ではなく、

長期間運営する事業

に踏み込んでいる。

商社の企業価値を考える上で、市況に左右される資源トレーディングより、こうした長期事業から継続的に収益を得るモデルの方がPERを高く評価されやすい可能性がある。

双日自身も、中期経営計画の中で「PER向上」を明確に掲げている。

6.そして業績も追いついてきた

テーマだけでは株価は長続きしない。

重要なのは利益だ。

2027年3月期第1四半期を見ると、

収益 8,342億円

前年同期 5,989億円

売上総利益 1,113億円

前年同期 822億円

純利益 302億円

前年同期 211億円

となった。

純利益は前年同期比で約43%増えている。

通期会社予想は、

純利益1,300億円。

前期の1,036億円から約25%増益となる計画だ。

つまり現在の双日は、

「将来テーマだけの会社」

ではない。

足元の利益成長も伴っている。

ここは投資家にとって大きい。

7.双日が狙っているのは「利益」だけではない

中期経営計画を見ると、双日の意図はさらに明確になる。

目標として掲げているのは、

ROE 12%超

3年間平均純利益1,200億円超

6,000億円超の成長投資

そして、

PBR1倍超の常態化

だ。

特に注目すべきなのが「PERを高める」という考え方だ。

これは非常に重要だ。

株価は、

利益 × PER

で考えられる。

利益だけ増えても、市場から「景気敏感の商社」と見られ続ければPERはなかなか上がらない。

しかし、

資源トレーディング中心

↓

重要鉱物の供給網

↓

防衛・航空

↓

長期インフラ運営

と事業の質が変われば、市場が双日に与える評価倍率そのものが変化する可能性がある。

双日のCFOも2026年の統合報告書で、株価について「これまで市場上昇局面でも十分反応しにくかった状況から、会社の変化や成長への期待が反映される局面が増えてきた」と説明している。

ここが今回の投資テーマの核心だ。

8.配当も“下値の支え”になりやすい

株主還元も無視できない。

双日は株主資本DOE4.5%を基準とする累進配当政策を採用している。

年間配当は、

2024年3月期 135円

2025年3月期 150円

2026年3月期 165円

2027年3月期予想 180円

と増えている。

さらに中計では、機動的な自己株式取得も掲げている。

成長テーマだけでなく、

利益成長+増配+自社株買い

がセットになっている点は、長期投資家にとって評価しやすい。

9.ただし、「経済安全保障商社」という評価には条件がある

もちろんリスクはある。

まずレアアースやガリウムは、政策の影響を強く受ける。

政府支援が縮小した場合、採算性が変わる可能性がある。

また重要鉱物は、中国勢との価格競争が極めて激しい。

Lynas自身も、中国以外の供給網を成立させるためには政策支援や価格制度が重要だと指摘している。

さらに商社である以上、

為替

資源価格

大型投資の減損

海外事業リスク

から逃れることはできない。

したがって、

「レアアース関連だから買う」

という見方は危険だ。

見るべきなのは、そのテーマが実際に利益へ変わっているかどうかである。

結論

双日の再評価は「資源株」ではなく「国家インフラ株」として始まる可能性

双日という企業を一言で説明するなら、これまでは「総合商社」だった。

だが今後、市場が別の見方をし始めても不思議ではない。

レアアース。

ガリウム。

航空・防衛。

空港・インフラ。

これらはすべて、

国家が止めることのできない産業

だからだ。

世界経済は今、

「最も安い国から買う」

という時代から、

「多少高くても安全な国から確保する」

時代へ変化している。

これは企業にとってコスト増になる一方、その供給網を握る企業には大きな事業機会となる。

そして双日は、その変化のかなり近い場所にいる。

投資家が今後確認すべきポイントは3つだ。

レアアース・ガリウム事業がどこまで利益貢献するのか。

防衛・インフラ事業が継続的な収益の柱へ成長するのか。

そして、

利益成長だけでなくPERそのものが上昇するのか。

もしこの3つが同時に進むなら、

双日(2768)の投資ストーリーは、

「割安な総合商社」から

「経済安全保障時代の戦略企業」へ。

その評価転換こそが、次の株価を考えるうえで最も重要な論点になるかもしれない。

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